HETEROCHROMIA
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チンピラの夢.

編集者の女

飲み屋なんて団地と一緒で
どこにあろうと変わらない
人々が出入りする
普遍的な
世界の
入り口。

カウンターには自堕落な酔っ払いが座り、
昼にこぼせぬ愚痴をわだかまりな糞みたいにこぼす
それがテーブルチャージであろうと
なかろうとも
人の人生に
耳を傾け
口を挟む。
雑誌で特集を組まれる街だってその法則に変わりない。
気取りたいならここにいる必要はない。

今はただここにいるだけ
いまだに領収書ばかりを切って行くものたち。
ビール2杯で。イカレテル。
話の中身なんてまるでない。
この体たらくと何が違いある?
俺はというと、
一つ前の飲み屋のつり銭が見当たらない。
ポケットには穴はない。
おまいらはカナの銀行口座に
たんまりとお金がある。
だったら
余裕を持って鳩の羽でも胸に付ければいい。
格好悪いことにも見出せれば随分大人になるはずだ。

そうやって人の人生を決め付けて、酒を呑む。
なんてことはないただのクズ。
全うであろうと、
世の中にはクズが溢れる。
あぶれる。

高慢ちきな女が酒を呑んでいる。
モンドリアン調のスカートを履いたいけ好かない女。
会話を聞いてると出版社の編集者であろう。
若い先生を連れて接待か。
可愛い面して生意気な編集の女。
それを分かってる喋り方。
嫌だ嫌だ。
自身がある人間なんて相容れない。
狭い店内。
トイレに立った彼女は俺の肩にぶつかる。
「ごめんなさいね」
ごめんなさいにねを付ける。
あー嫌だ嫌だ。

時間が経つ。
バーボン3杯でいい気分だ。
彼女も同じようで、先生らにタメ口をきいている。
そうだね。お姉さんだもんね
酔っ払ったもんね。
だから嫌いだって言ったんだ。
俺は笑った。
その通りになって気分がいいか?
気持ち悪さにげんなりする。

彼女らは終電の時間を気にし、
いそいそと帰宅準備をする
まるで友達の様。
彼女はバランスを崩し、俺に寄りかかった。
俺は彼女の腕を取り、立たせた。
先生らは彼女に構わず店を出た。
彼女は絡んだ腕離さず、胸を寄せた。
「あら、いい男だね」
そうか、彼女は寂しい女か
どうやら俺が見えるらしい。
「ほれ、皆いっちゃたぞ。電車遅れるよ」
「私は電車じゃないから」
「そういう話じゃないだろ。ほれ」
彼女の腕が名残惜しくゆっくりと滑るようにほどけた。
「電車は乗らないよ」
彼女は残すように離れる
椅子の下に書類が落ちている。
打ち合わせに使っていた難くるしい文書。
「おい、これ忘れてるよ」
彼女は待っていたかのように振り返る。
「あー、それ大切なの。ありがとう」
やっと屈託のない笑顔。彼女は店を出る。
もう一杯バーボンを頼む。
どこにでもある街角の飲み屋。
クズが静かに呼吸する。合間に酒を流し込んで、時計は消える。
ポケットからしわくちゃの札を出し、店を出る。
静かな夜だ。誰にでも来る静かな夜。
猫が楽しげに横切る。
「そうか夜行性だもんな」
電車が終わると駅前も息を潜ませる。
どこもかしこもシャッターは閉まり皆眠りにつく。駅もそうだ。
シャッターは降りている。
その前に女がポツンと佇んでいる。その場で酔いから覚めるのを待つように、ただ呼吸をしている。
闇に色を奪われたモンドリアンのスカート。
「おい、どうした?帰らないの」
「ううん?、ただちょっと疲れちゃって、もう帰る」
「近いの?」
「うん」
「じゃあ行くか」
彼女は誘って、俺は誘いに乗った。
彼女はタクシーを止めた。10分走り、車は止まる。
俺はポケットからくしゃくしゃの札を出したが、彼女はそれを制した。
そうして車を降りる。彼女も金を払っていない。どういうシステムかは知らないが、タクシーはまたどこかへ向かい走っていった。
小奇麗なマンションだ。一生住むことがない形をしている。
オートロックを空け、エレベーターに乗る。
彼女の腕は主に戻るように俺の腕に絡む。不思議と居心地がいい。
部屋を空けると、自然と常夜灯がつく。薄くらい中、ハンガーラックに雑然と並ぶ洋服が目に入る。
なんとも彼女らしい。
「ねぇ」
そういうと彼女は両手で頬を挟みキスをした。
まるでアメリカ映画のように扉を開けてすぐに情事が始まる。
試されているようにも感じるので、彼女よりも早く次の行動に移る。
服の上から彼女の体を弄り、ベッドに倒す。
彼女は声をあげる。
あぁ、なんてビッチだ。
めやくちゃにしていい女
それを求める嫌な女だ。
かわいい顔をして
いいケツを持ち
自立してマンションに住む
嫌な女。
こいつには人生を省みる必要がある。
クズの気持ちが分かれば彼女は成長する。
彼女はもう素っ裸で
今すぐにでも欲するように
俺のものをさする。
そうしてパンツを下ろし銜える。
俺の顔をじっと見ては
卑猥な表情を見せ、
どれほどの女かを見せ付けるように首を振る。
俺は彼女の頭を持ち、後ろを向かせる。
さぞかし、待っていた彼女の中にゆっくりと入る。
肉のぶつかる音が室内に響く。それと吐息交じりの彼女の声。
彼女はまだ卑猥な表情を続けられているか。
俺はそのままの姿勢で彼女の腰を持ち90度体の向きを変える。
姿見があり醜悪な欲情にまみれる二人の姿が映し出される。
彼女はさっきよりも恍惚な様でいる。
俺は腰を振る。彼女の顔に手を掛ける。
彼女は俺の指を銜える。俺はさらに強く彼女を突く。
指は喉頭に向かい、嗚咽交じりの声が響く。
涙目を浮かべる彼女の首に両手をかけ、締める。
快楽と苦しみに彼女は落ちていく彼女はオーガズムの中にいて、現実逃避をしている。
まるで催眠術にかかったようで、俺の問いに何でも答える。
「生まれはどこだ?まさか東京じゃないだろう」
「はっ、そう。そうよ。東京じゃないわ。静岡。何にもない田舎よ」
「かわいい学生だったろうな。友達は?」
「友達?ふっ友達はもういない。私は田舎を捨てたんだ」
「親はどうした。静岡にまだ住んでるの?」
鏡の中で喘ぐ彼女の瞳がゆっくりと開いた。彼女は自分の瞳をじっくり見て話す。
「お母さんが住んでるわ。お姉ちゃんとその旦那。子供も一緒に。父さんはだいぶ前に死んだわ。結局、喧嘩別れしたまま」
彼女の首から手を離す。
「そうかい。人気者だった学生生活を経て、田舎に限界を感じて、父の反対を押してまで東京に出たんだな」
「そう、そうよ」
「そうしてガムシャラに頑張って、仕事をこなし今に至る。両親は今の君を知っているかい?目の前にいる醜悪な姿が今の君だよ。晒しているのは寂しいからかい?誰も知らぬ人間にでも埋めてもらいたいのかい?見てごらん。君が今心を開いているのはただのクズだ。君の年収の半分にも満たないし、ボロ布一枚羽織って酒を呑み、愚痴をこぼすだけの人間だ。そんんな人間に抱かれ、快楽に声を漏らす。それが今の君だ」
彼女は涙をこぼす。そうして喘ぐ。
「意見があるならば言ったほうがいい。でないと、文句だけを言うようになってしまうよ。その度に君はクズに抱かれる。そうでないことを祈るよ」
彼女は快楽の絶頂で腰から崩れた。疲れ果てた子供のようにピクリともしない。
俺はボロ布を纏い、ズボンを履く。
「これ貰っていいでしょ?」
机の上にある洋酒に手を掛ける。彼女は小さく頷いたように思える。
そうして彼女の顔も見ずに部屋を出る。エレベーターで酒をラッパ飲みする。
外は少し青みが帯びている。今日はぐっすり眠れそうだ。
帰路に着く。

朝が来て、素っ裸の彼女はぼんやりと座り込んで何かを考える。
そんなにない時間の中で彼女は考える。
少しすると彼女は顔を洗いにベッドから出る。
そうしてまた一日は始まる。