HETEROCHROMIA
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チンピラの夢.

チンピラと息子

踏み切り程度の停止で頭を垂れる。
聊か疲れすぎている
小さな靴が視線を通る。
頭を上げる
誰よりも目を輝かせた少年が無邪気に縦横を走る
後ろでは快速が過ぎていく。
ババァに自転車乗り。
親はいない。
僕はというと、この先の坂道を思い、ゲンナリとしている。
乳酸が溜まっている。
サラリーマンでもたぶん同じ事を思う。
年をとった。
踏切が開くと少年は一目散に走る。
肘はハンドルから離れない。
誰よりも遅く自転車は進む。
少し先で少年は立ち止まる。
親はいない。
興味を伝える相手がほしいだろう。
少年は誰かに伝えたく、
仕方がないので目を合わせてやった。
年をとった。
「なぁ、兄ちゃん」
少年はそういうと悲しげに視線を落とした。
車に引かれたアゲハチョウ。
まさに虫の息。綺麗なままの片方の羽がヒクヒク動く。
「綺麗だな」
「えっ?」
少年の顔が変わる。悲しみは興味になる。
「なんで?の前に綺麗かどうか考えてみな」
少年は再び視線を落とし、瀕死に食い入る。
「どうだ?」
「うん。潰れてるけど綺麗だ」
チンピラシャツの長髪と誰よりも輝かしい目を持つ少年。
二人で昆虫を観察している。
親子だ。どこかの夕暮れだ。
夜になれば少年は眠り、俺はゲロを吐き、昆虫はいなくなる。
誰もいなくなる。やがて、いなくなる。
今はみんないる。それらを見る人もいる。
「綺麗だよ。兄ちゃんにもそう見える?」
俺は今に戻る。
「あぁ見える。不思議だな。濁った目でもそう見えるんだな」
「不思議じゃないよ。それが目の前にあるって教えてくれたのは兄ちゃんだ」
少年はそういうと、また走り出した。
親元へと帰ったのだろう。
俺はというと、コンビニによりアイスを買った。
テレビをつけたままソファーで寝た。
また、夜が来る。