初めて来るガールズバーにて、後輩はハーフっぽい娘をみて「ハーフなの?」と問う。野球とバレーボールが好きなのに、ブラジルとキューバで興味を示さなかったのに・・・散々だ。
翌日、僕は彼に尋ねた。
「もらうのとあげるのはどっちが楽だ?」
「そりゃ貰うほう」
直観なんて誰しもが思うこと。俺を知ってほしいが為にそれを口にする。そうして名刺は捨てられる。たわいなさすぎる愛は埋もれてしまう。
けど、不思議なもので愛に慣れている女は愛を知らされないと不安になる。いつでもじゃれていたい。
ハーフの娘はほっとけば自ら口にする。愛を言葉にしなければ愛を投げてくる。
「私ってどう見える?」
そんなことを考えていると、まるで見透かすように端っこの娘は柱に隠れてこっちを見ている。
「そっと、見てるの。前に出るタイプじゃないからここから見てるのよ」
「家に帰ったらお湯をためて久しぶりに潜ってみるといいよ。映画の主人公の気分になれる」
彼女は朝になり家へと帰る。新聞配達員とすれ違い。隣の家の環境音にビクつく。朝帰りは面倒だ。
昼からデート。それも億劫。もう眠りたい。それでも怠惰を知れば、他を欲する。湯をためる。頭の切り替えに時間がかかる。半分たまるまでじっと蛇口を見ていた。音を聞いていた。ししおどしを思い出し、検索した。全然思ってるのと違う意味だった。お湯はいい具合にたまっている。シャワーを浴びることなく湯につかる。鼻をつまみ、勢いよく潜る。頭をバスタブの底におろし、足はだらーんと中空に伸びた。
「ぷはぁー」
目をぱちくりする。確かに気持ちよかったが、言われたことまではわからない。所詮はまやかしか。
もう一度潜る。かべに触れるとヌルヌルしている。手でこする。ツルツルする。
「ぷはぁー」
また潜る。こする。×××繰り返す。栓を抜く。ピカピカ。体も、風呂も・・・。晴れやかな気分になる。
「はっ?ここまで考えて?」
それは憶測にすぎない。
疲れていても昼からデートなんて。晴れやかな気分でデートなんて素晴らしい。
はつらつとした彼女の表情に彼は思わず「可愛いね」と言った。思わずだったけど、彼女はその言葉をとても喜んだ。思ったことを口にしただけで二人の距離はぐっと縮まった。
後輩の男の子はガールズバーで娘に向かって愛していると言っている。