クラテッロと通り魔最近することといえば、帰り道にスーパーによりカルパスとバーボンを買う。それを家で嗜む。酔いの中に脂身は溶けて、一日の終わりを告げる。それが晩餐であり、神様への謙譲物だとしても誰も信じない。無論、自分でもそう思う。
それが当たり前になり、普遍となると変化が生じる。今週からスーパーではいつものバーボンが売らなくなった。たかが安酒。それでも嗜好品である。この町でそのバーボンが安いスーパーは少しだけ高級なスーパーだ。そこへ向かう。ここのスーパーではカルパスは買わない。一つだけの買い物はタバコ屋だけで十分だ。
高級スーパーは優雅である。深夜なのに若い娘が酒を陳列している。その横を過ぎてチンピラは望みのバーボンを手にする。そのまま裏に回りチルドコーナーへ。カルパスはなくサラミしかない。鶏はここではお呼びえないそれでいい。メロウソーセージを手に取る。位の高い中でも下のものはいる。否、わけ隔てる必要なんてない。物の価値なんてたかが知れてる。ソーセージを戻す。その隣にはクラテッロのセミドライサラミが売っている。夜は嗜好品だ。バーボンとクラテッロを手に取り、レジへと向かう。誰もいないレジ。呼び鈴がカウンターに置いてある。それを押さずにレジの前でただ待っている。外ではスケボーに乗った若者がはしゃいでいる。酒を陳列していた姉ちゃんが小走りでカウンターに入りレジ打ちをする。袋をもらわなかったら2円引きしてくれた。店の外へ出る。若者はかなたで小さくなっているがその声はまだ聞こえる。ウィスキーを一口のみ、リュックへしまう。裸のままラッパ飲みをするほどイカレテはいない。クラテッロは上着のポケットへと入る。
確かに夜だ。その一口で始まっている。もう、考えなくてもいい。後は起きてからでいい。こんな夜にしか星を見ない。とんだご都合主義だ。ロマンチックな感性にふと触れると、何かしらに物語りを求める。目の前では千鳥足の女が路地へと入り、壁に手をかけてヒールを脱ぐ。スニーカーに履き替えているだけなのに、それを見ているのは何だか後ろめたい。やましさの奥にはいずれかのエロスがある。たかが、家に帰ってサラミを齧り、バーボンで流し込む。そんな男が星の瞬く夜に少しの想像を思っても仕方あるまい。女はペタペタと少し先を歩き、路地を曲がった。その瞬間、女の悲鳴が聞こえた。まるで夜が終わったかのような、静寂に似つかない嫌な声だった。私は走り路地を曲がった。このくそ寒い中Tシャツ一枚でカッターナイフを振り上げる男が立っている。全財産を投じた賭けに負けたような顔をしている。彼女は腰を抜かし、すがる様顔をてこっちを見ている。なんて臆病を得意にした嫌な目である。言葉はいらない。全員が反射の問題だ。どう転ぶかは誰も知らない。チンピラ風情の私はナイロンのテロテロのジャケットに手を入れる。このルックスで得も損もする。価値観はあたえてやればいい。なめられる分後が楽でいい。男はカッターを振りかざしたまま動かない。私はポケットでサラミをギュッと握る。まるで仁侠映画のようにドスで刺し違えても構わない面構えをする。男のTシャツには『I HATE ONIONS』と書かれている。サラミで殴ってもヒップアタックにすぎず。緊張と緩和。張り詰めた空気は緩み伝染す。男はカッターを下ろし。走って闇へと消えた。座り込んだ女を見下ろす。何事もなかったかのように酔いの中へと戻っている。脇に手をかけ立ち上がらせる。キツイ香水の匂いとアルコール臭がする髪の毛。
「酔ってんの?」
「酔ってる。気持ち悪い」
もはや面倒なてる抱え物に過ぎない。女はきれいな方がいい。わがままも嫌いだ。
「お兄さんは?酔ってんの?」
「いやこれからかな」
「じゃあ飲もうか?」
やれやれだ。とんだ夜だ。自分の時間を殺されるほど嫌なこともない。仕方がないので答える。
「ツマミはあるよ」