HETEROCHROMIA
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キッチンエイドAD504

なぁ、お姉ちゃん 台所を貸してくれ

北の老婆にシチューを届けなきゃならないんだ 明日、明日の夕暮れまでに・・・

うちには鍋もペティナイフも、塩だってないんだ! 引っ越した時に捨てちまったのさ

だから台所を貸してくれ ピカピカなんてもとめていないよ

知らない仲じゃないだろう?あの日、噴水の前で歌った僕の知らない歌をまた歌ってよ 今度は僕もおぼえるからさ シチューのグツグツにひきこまれながら 一緒にうたうんだ

そうして僕は北へ向かうよ

彼女のストーブで温める テーブルの真ん中に置き あとはパンとバターだけ 何時間も続く晩餐を楽しむ

そうして陽が暮れ、一日が終わる いや、君も知っているように明日は最後の日だ

北に住む老婆はもう生きられない 君と僕の思い出なんだ

シチューは決してなくならない その前に陽が沈むんだ

でもね、もしも陽が沈まらなかったら、今日と同じように君の好きなものを作ってあげる

もう料理は君にしか作らないんだ

君の料理を作りたいから、台所を貸してくれ

明日、老婆が何かを作ってくれているならば、それは君からのお返しなんだ

けれど、そんなものはなくたっていい 明日でも僕が君に料理を作ってあげられるから

君はきっとおいしいと言って、僕はきみの部屋の咲く、花の名を尋ねる

そうして、外を見るんだ 一面真っ赤に染まった地平線

アダムとイヴがカシューナッツを食べて笑っている

それを僕らは俯瞰で見るんだ